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きままにメガテン関係のSSを書いてゆきます
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無題
ええと、出版社のひとと約束した話があるので
あげておきます、ながいですよ

たいとるは 図書館船体レファレンジャー


それでは、すたーと




サヨナラサヨナラ

―完―

 

 


書き上げたブログの前で放心していると、そっと肩をたたかれた。

振り返ると5歳年上の兄が、慈愛に満ちた眼差しでわたしを見下ろしている。

「雅美。…疲れてんのか?」
「う~ん、ちょっとね。普通のOLって難しいんだわ、結構」
「そっか。どうしても辛かったら、仕事なんか辞めてもいいんだぞ?」
「まあね。でももう少し頑張るわ。せっかく30間近まで、頑張って働いてきてるんだし。別に、職場が嫌いなわけじゃないの。…ただ、男がちょい悪オヤジなKYばっかで、つかれるだけ…」
「ただの、バカなら重要ポジションにつくわけないから、彼らなりに賢く生きてるんだろ。お前もお前で、もう少し要領よく生きればいいんだよ」
「なるべく…そうありたいんだけどね」


ジャージ眼鏡姿で、伸びをしたOLの休日は、静かに終わろうとしていた。

 

 

 

 

第1部


『プロローグ』

 

俺と、世界を手に入れよう


ある日、図書館でアルバイトをしていると、特にこれといって特徴のない顔の青年が
話しかけてきた。
コンバースの赤いトレーナーを着ている。


うむ、書架で本の返却をしている時ならまだしも…。
カウンターまできてこれを言うとは、なかなか見上げた奴だ。

しかし、俺の答えは決まっていた。

平日の午前中ということもあり、図書館は閑散としている。

周囲に人が居らず、隣のカウンターの職員が居眠りこいているのを確かめた上で、俺はこう回答した。


「…お前、そんな誘いをかけるってことは、悪魔か革命者か
永遠の不満分子だな?他をあたってくれよ。
俺は、今のままでも結構幸せだ。非常勤職員(時給制)で
給料UPが永遠に望めないことをのぞけばな。
大体この世で、ン十年近く生きてりゃ、楽しい想いよりイヤな思い出の方が多いはずだ。
よっぽどのラッキー・マン以外はさ。
それなのにどうして、こんな世界を手中に収めようとか思えるんだ?
あのな、ツンデレ女なら、いつかデレてくれるけど、
ツンツンは、ただのヒステリーだからな?
永遠のヒステリーだよ、神経磨り減るだけだからやめとけ!
この世は永遠にデレ期がこない、ツンデレ女そのものさ!!!!」

 

最後の方は、無自覚に声がデカくなっていたらしい。

居眠りしていた職員が、覚醒した。
「え?うわ、なに…時田君、どしたの?」
「すみません。ちょっと………お客様から…」
「ああ」

その説明で、先輩である彼女も全てを悟ってくれた。

図書館に長く居れば、分かる。

どんな図書館であろうと、一定の確率で困った利用者や、変わった利用者が、
訪れるものだと。


まあ、俺も変人の部類ではあるだろうが……。
ちゃんと家族や友人を大切に思えて、外で働いて合法的に稼いでいれば(低所得でも)
誰に文句を言われる筋合いじゃない。

心の中で、何をどう思おうが自由だ~!(エンダの仏様ED風に)


脳内で、いつもの結論(俺はこれを真人間であるためのウイルス・チェック機能と呼ぶ)
を出し、俺は接客モードに戻った。


ちなみに、悪魔の誘いをかけてきた青年は、とっくに居なくなっていた。

勝った!(一つも嬉しくない)

いまの兄ちゃんなんか、マシな部類だ。

頭がちょっとおかしくたって、犯罪者にならなければ、社会の片隅で生息したっていいじゃないか。
人間だもの(笑)

それに、ここは魔界都市だからな。
ある意味、現代のソドムとゴモラだ。
そういえば、小学生の頃は、ソドムとゴモラをお笑いコンビか双子の兄弟と
勘違いしていたものだった。
取り留めなく、思考していると新たな客が来た。

なかなか、福々しい体格の女性だった。
でも、これからお母さんになるのであれば、
このくらいOKだろう。

彼女は、カウンターの前に立つと、マタニティドレスに包まれたおなかを、愛しそうに撫でながら、俺に話しかけてきた。

「これから母親になる女性向けの、お勧めの本とかありますか?」
「そうですねえ」

俺は、ただでさえ細い目をますます細めながら彼女を見上げた。

「こう…、結婚にあたってというか…妻としての心構え、
母としての心構えを学ぶのに、お勧めの本ならありますよ。
実は、昨日従妹に薦められたんですけどね。時間がなくて、まだ読んでないんだけど、
すっごくいい本だそうですよ。あまりに秀逸なデキで怖くなるくらいに…」

そういって、俺が差し出されたのは、例え彼女の作品を一作も読んだことはなくとも
名前だけなら、およそ全世界の人間が知っているだろう、著名なミステリの女王の本だった(私物)。
「最近、新装版が出ましてね。妹が買い揃えてるんですよ。
僕は正直なところ、旧版のほうが好きなんですが…。
まあ、字が大きくて読みやすいし」


「え?でも、これって推理小説ですよね?殺人事件とかそういうのって
胎教によくないじゃないですか!もっとこう、妊婦のエッセイとか
育児書とか、絵本とかはないんですか?」
「いや、確かに彼女はミステリ作家ですけどね。
殺人事件の話ばかり書いているわけじゃないんですよ。
とりあえず、妊婦としての具体的な備えについては、
エッグ倶楽部とか、コロポックル博士の育児書とかで大丈夫だと思います。
でも、生物学的に母親になるのも大変ですが、
精神的に母親になるのはもっと大変だと思います。
きっと読んで損はないとおもいますよ。
…それに間違っていたら失礼ですが、あなたはクリスチャンじゃありませんか?
もしかしたら旦那さんも」

「え、ええ。そうです。夫も私もクリスチャンですけど、…どうしてわかったんですか?」
「僕の家もクリスチャン・ホームでしてね。だから、なんとなくです。それに、両親はいまでも熱心なクリスチャンですよ。
僕も小さい頃は、教会通ってたんですけど、親元はなれてからは全然行ってません。正直、そんな余裕がなくてね。貧乏ヒマなしっていうじゃないですか」
「まあ…そうなんですか…」
彼女は、清潔ではあるがくたびれたシャツ、色あせたジーンズ、
スマートというよりはやせぎすな体つきの司書を見下ろし、気の毒そうな顔をした。

「でも、教会は行かれたほうが…」
「ええ、そうですね。神様が恋しくなったらまた行きます。でも、今はボロいマンションに弟と妹と3人暮らしでね。一人ぼっちじゃないし、
好きなだけ本を読めるし、一応食べていけてるし…。まだ、神様にすがるほどの状況じゃないんですよ。
もちろん、神様がいらっしゃるとは思ってますけど。
むしろそばに居て欲しいですよ、切実にね!」
「あら、そうなんですか。でも弟さんと妹さんがいても、やっぱり寂しくないですか?彼女とかは?」
「残念ながら、長続きしたためしがないんですよね。どうしてだろう。やっぱり目つきが悪いせいかな?」
言葉とは裏腹に、少しも残念に思わず俺は笑った。

「そんなこともないですよ。いまに、それこそきっと神様が
貴方にぴったりの伴侶をくださいます」
「えぇ、そうですね。もし、今後、恋人に恵まれない気の毒な男性を見たら、
僕のことも思い出して、お祈りしてください」
にこにこしながらそう言う俺に、彼女は素直に同情してくれたらしい。
「きっと、そうします」
そう答えて、微笑んでくれた。
なるほど、慈母の笑みとはまさにこのことだ。
彼女の子供として生まれてくるのは、きっと幸せなことに違いない。
「では、お大事に。良いお子さんが生まれるといいですね」

そんな会話を経て、彼女は赤い背表紙の文庫本を持って(俺の私物を貸した)家に戻った。


そんな彼女を見送りながら、俺はひっそりと口の中で呟いた。

 

 

♪赤ちゃん、赤ちゃん、胎児ちゃん

どうして、貴方は暴れるの?

ママのお腹の中にいて 既に絶望してるのかい?

そんなにこの世は怖くない

少しは楽しいこともある

元気で生まれて 来てくれよ♪

            by時田 紳一郎


ドグンラ・マクラをアレンジして、グッド・エンドに作り変え、俺はとても満足した。


やはり、図書館の司書たるもの、ランガナータンの五原則を、常に心に掲げていなくてはならない。

曰く

・全ての人に本を
・全ての本を人に
・図書館は成長する組織である(無論そうあるべきだな)

おや、おかしいな…2個思い出せない。
まあいいか。

しかし、少し前に、とあるラノベのおかげで有名になった、図書館の自由に関する宣言も悪くないが…。
そもそも表現の自由を守るのは、あらゆるメディアが、共同戦線をはって弾圧者に立ち向かってこそだからな~。

無論、図書館だって本の自由のために戦うべきだ。

俺だって、愛する本を守るため戦うぞ!
とりあえず、誰かが図書館の自由を侵害しようと襲ってきたら、手近なレファレンス・ブック(一番分厚く重いもの)で、額をカチ割ってやるZE!

仮想敵を、脳内で完全に葬り去って、そいつの墓石の前で勝利の高笑いをかました後、
俺は再び現実の業務に戻るのだった。

 

 

 


『利用者その1 藤沢愛美』


椅子に腰掛け、そっと膨らんだおなかをなでる。
結婚して6年目でようやく赤ちゃんを授かり、
あと3月あまりでおなかの中の赤ちゃんと対面できるのだ。
男の子だろうか、女の子だろうか。
それはまだ、分からない。
勿論、望めばお医者様は子供の性別を教えてくれるだろうけれど…。
やっぱりそれは、生まれるまでのお楽しみにしておきたかった。

もうちゃんと、名前も考えてある。
男の子と場合と、女の子と場合と。


一体どんな子に育つんだろう。
信さんに似ているだろうか、それとも私に似ているだろうか。

楽しい空想に耽りながら、テーブルに肘をついた拍子にパタリと本を落としてしまった。

そうだ、本を借りてきたのだ。
せっかくだから、読もう。
夕飯の支度をするまで、あと3時間は余裕がある。
下ごしらえは、昼食の時にしてあるのだし。

そして、彼女は読み始めた。

弁護士の夫を持ち、2人の娘と一人の息子の母になり、
何もかも順調で幸福な人生を歩んでいる
とある中年女性の回想の物語を…。

 

 

 

 

幕間『時田家の3兄妹』


「ただいま~」
「お帰り…」

六時に帰宅すると、既に妹が家にいた。
派遣OLで、都心まで働きに行ってる彼女は
大体、いつも7時過ぎに帰宅するのだが。

「今日ははやいな」
どうしたのかと聞けば、”生理痛が痛いから早退した”とのたまう。

まあ、妹も今年三十に突入する。
微妙な年齢でもあるし、具合が悪いときに無理をしても始まらない。
どうせ、月給制だし有休もたまには使わないとな。
いや、生理休暇があるのかもしれんが、雅美の職場の勤務体制など詳しくは知らん。

俺はちゃんとした会社勤めをしたことがないので、なおさら分からん。

まあ、ズル休みをするようなキャラでないことは確かなので、言葉通り信じよう。

なにせ、雅美は初めて月経がきた時、痛さのあまり貧血を起こして、
学校で鎌田行進曲ばりの階段オチをかまし、救急車で運ばれた経歴の持ち主だ。

足首の骨にヒビをいれて、松葉杖で戻ってきた。

あの頃から、身体を張ったお笑いというものを理解していた女だった。

といってやりたいが、単なる天然だな。

面白いから、構わないが。
これからも、死なない程度に俺や雅司(弟)を笑わせてくれ。


「なあ、本日のシェフは俺だから、簡単に海鮮鍋だが構わんか?」
「おなか痛いから、なんでもいい。食欲ないもん」
「了解」

簡単に下ごしらえを済ませて、リビングにもどると、雅美がネット用PCの前で
メガ早撃ちのタイピストになっている。

おまえの後ろにスタンド(白銀星)<ジョジョ>が…じゃなくて、仲魔(イチモクレン)<メガテン>が見えるよ。


さすが、現役のOL。
高校まで、ピアノを習っていたこともあり、俺など足元にも寄せ付けない、最速のブラインドタッチだ。
3倍早い<キャスバル兄上>どころか、10倍界王拳(あれ字が違うか?)<ベジタブル人>である。

ブログでも書いているのかと思えば、チャットをしているようだ。

誰とやりとりをしているのかは、横から画面を見ればすぐに見当がついた。
俺の5コ下で、雅美と同い年の従妹の堂縞菜々子だ。

彼女は、オフィスビルの林立する某区の図書館で司書をしている。
ちなみに、俺と違って正規の公務員だ。
とりあえず現在は同じ仕事であるため、俺ともよく変な利用客談義をする。

愉快なマイ従妹だ。

彼女は今年で…6年目だったかな。
よく続くもんだ。
まあ、菜々子は本が好きで好きで好きで、本を読むために生まれてきたような
人間だからな。

俺たち兄弟妹は、どちらかといえば漫画派だが彼女は乱読派だ。
むしろどこに出しても、恥ずかしくない活字中毒者だ。
彼女が字を読んでいないのは、寝ている時だけらしい。
本人が言ってるんだから確かだろう。

ある意味、図書館で働くために生まれてきたともいえるかな。


しかも、活字中毒者なため、読むのが滅茶苦茶早い。
どのくらい早いかといえば、永遠のベストセラー(聖書)を通読するのに3日しか
かからなかったそうだ。
しかも、文語約やら新共同約やら読み比べて、文語調の方が味があるとか言っていた。

…骨の髄まで、マニアックだ!


極めつけは、高校生の時に、粟本薫先生の100巻越え大作を読破したという。
制覇するのに一週間かかったというから、いくらなんでも100巻を一週間は嘘だろうと
問い詰めてやったら、恥ずかしそうに己の言葉を訂正した。

”実は、4日で読み終えてたんだけど、変人だと思われるから日数を多めにサバよんで言ってたんだよね…”

しかも授業をさぼって読んでたのかと思いきや、数学以外(彼女は四則演算だけで生きている)は真面目に授業に出て、通学時間と休み時間と、家での自由時間だけで読破したらしい。

いまさらなにを、常識人ぶろうとしてるんだ菜々子よ。
お前は既に、周囲の人間から変人だと思われているぞ!!!


見事なまでの真性・活字オタクだ。
彼女は、見かけはごく普通の眼鏡女子だが、その正体は……。


活字地獄に落ちて、魔界転生してしまった真・オタク女子だ。


ともあれ雅美は、そんな活字オタクの従妹ととても仲がいい。
やはり、女は女同士ということだろうか。
昔は、電話で延々何時間も喋り倒していたが、ありがたきかなIT時代。

毎晩のように、プライベートチャットだか、インスタントメッセージだかで
雑談をしているらしい。
菜々子って奴がまた本は好きだが、人間はあまり好きではないらしく(まあ、活字中毒者は、喋るヒマがあったら本を読ませてくれという種族だからな)
勤めはじめたころは、図書館は職員もお客さんも変人ばっかりだと
凹んでいた。

電話で苦情を言われるのすら苦痛らしく、本があればそれでいいのにと何度も嘆いていた。

だが27を過ぎた頃から、やっとまともに接客ができるようになった(本人談)
彼女は究極のマイペース人間なので、どこまでまともなのかは分からんが、
まあ一生人間嫌いの活字オタクでいるよりは、人と付き合う楽しさも分かった方が、
人生豊かになるだろう。

従兄としては、喜ばしい限りだ。

どれどれ、菜々子は本日も図書館で、どんな愉快な目にあったんだ。

俺は、目にも留まらぬ早業で文字を打ち込んでゆく妹の肩越しに、PC画面を見つめるのだった。


「そういえばね、お兄ちゃん」
タイピング速度をまったく落とさないまま、雅美が話しかけてきた。
「なんだ?」
「もうすぐ、子供が生まれる友人がいるんだけど、なにかお勧めの本ある?絵本系。出産祝いにプレゼントしたいんだけど」
「う~ん、なせけいこセンセイとか、どうだ」
「なせセンセのって怖くない?」
「ああ、怖いのもあるな、寝ないだけでオバケにつれていかれたり、
奇麗な箱を取り合って喧嘩しただけで、オバケにされたり」
「ダイジェストで語ると、余計怖いよわよね」
「とりあえず、おふろでブクブク、とか、いないいないババアとか、あ、なせ先生じゃないけど、ぐらとぐりってのも定番だな?」
「それ、逆さまじゃない?」
「あ、そか。ぐりぐらといえば、ねずみのドクターっていう絵本があるんだけど、今日のお話会(絵本の読み聞かせ)で俺、
ねずみのドクターは、ぐりぐらのおじいちゃんなんだよ~ってガキ達をだましてやったら、ついでに母親たちも信じてた。
なんで、素直に信じるんだろうな?ちょっとは疑えっての!!」
「嘘ついといて、怒らないでよ。この鬼畜眼鏡!!」
「だって、騙し甲斐がないじゃないかよ~。て、鬼畜ってナンだよ、俺をBLネタにするな!
それにBLってなんだよ。BLとか聞くたびにSLを思い出すんじゃー!!」

「お兄ちゃんなんか、ネタになるわけないでしょ。なにイタイ勘違いしてんのばっかみたい。
どうみたって、壱円シルバー副長が、現実に召喚されたとしか思えない外見の癖に!」
「いうな!俺だって、子供の頃からキツネ~とか、釣り目~とか、イヤになるほど慇懃に
何企んでるんですか?とか後輩の可愛い女の子に質問されたり……。挙句の果てには、何バカにして笑ってんだとか、
不良ぶったバカ連中に、インネンつけられたりしてたんだぞ。
なんも、企んでない!ただの地顔だ!!!!おまえこそ、どこの中学生だ、極道先生だ。
ジャージ普段着にすんな!!」

なんて、仲良く兄妹会話(コンタクト)していたら、携帯がなった。

着信音は、“こんにちわ赤ちゃん”だ

「あ、今話した妊婦の友達からだ。もしもし~、マナミ、どしたの?…え?え?ええええええー!」

楽しそうに、電話に出た妹の声が、絶叫に変わる。

「ちょ、なにバカ言ってんの!いますぐ行くから!!だめ!絶対ダメ!あたしがそっちに着くまで待ってて!!
命令だから!これ、お願いじゃなくて命令だから!!!いますぐ、ハイって言って!言いなさい!!言ええええええ!!!!!!!!(大絶叫)
……………………おっけ、いまいく、すぐいく、なるはやで、っと」

携帯をブチ切りするなり、妹は何の説明もなしに、サイフすら持たず部屋を飛び出していった。



あわただしく玄関のドアが開き、閉まる音。


「なんだ、どうしたんだ」
一人取り残された俺は、首を傾げるしかなかった。

その夜、妹は帰ってこなかった。

1時間後に、妊娠した友達が自殺未遂やらかしたから、今日は付き添って彼女の部屋にとまる、というメールが、一通届いた。
見知らぬアドレスだが、どこのPCを借りたんだ?

 

俺は、弟の帰りを待って、言葉も少なく鍋をつつきベッドに入った。
愛する、りらっくすアライグマのぬいぐるみと一緒に。

 


翌日は、土曜で休み(たまたまシフトの関係で)だったので、家で敵地潜入ゲーム(メタルキア・ツー)をプレイし、
ダンボール好きなおっさんを、ワザと撃っていると、げっそりした顔で妹が帰宅した。

あまりに憑かれた、もとい疲れた顔をしてるもんで、思わずコントローラを落っことした。

その拍子に、もう一発弾が発射され、TV画面の中で雷電な俺は逆切れ(違うか)した、おっさんに惨殺された。

ゲーム・オーバーだ。


「ただいま。あ~、疲れた。寝る」
「お疲れ、お休み。友達は大丈夫か?」
「ん、なんとか落ち着いて、いま病院で薬盛られて寝てる。看護師さんいるし大丈夫でしょ。じゃね」

その言い方は、どうかと思うぞ。
しかし、彼女はすでに部屋に引き上げていた。

そして俺は、もう一度、おっさんをつついて怒らせるプレイに戻った。


数時間後起きてきた妹に友達の写真(写メール)をみせてもらったら、俺が昨日接客した妊婦だった。
なんかイヤな予感してたんだよな。
そっか、駅の近くのマンションに住んでんだな~。

そのことを妹に告げると、何を読ませたのかと聞く。
素直に「春を抱いていたかったけど、今はもう秋(仮名)」と書名を告げると
首をかしげている。
雅美は、あまりノン・シリーズには詳しくない。
俺も、あんまり読んだことがない。
従妹の菜々子が、究極のホラー小説だ、バイオの追跡者が可愛らしく見えるくらい怖いというんで、彼女から借りたはいいが、怖気づいて読んでない。
でも、母親になる女性は、とくにクリスチャンの女性なら読んでおくべきだと、ついこの間言っていたのを思い出し、妹の友達に(知らんかったが)推薦したのだ。
そこまで説明すると、妹はさっそく近所の大型書店で問題の本を買って来た。
そして、2時間ほどかけて読破して、真っ青な顔で自室から現れた。

「……怖い。すごい怖い。こんな母親なんて、………いるわけないよ。これなら素直に、
殴る蹴る叱れるで親に虐待されたほうがマシ………。キツいわあ~。
やだやだやだやだやだやだやだ…」

頭を抱えて、リビングの隅っこで、やだ、コワイ、消えろと繰り返す。

兄ちゃんは、今のお前がすごく怖いよ……………。

幻覚みてる人っぽいよ…。


雅美まで鬱になったので、仕方ない。
一番防音性の高い雅司の部屋に連れ込んで、ムリヤリ“真紅の誓い”をデュエットした。


昼だっていうのにまだ寝ていた弟は、暑苦しい歌声を目覚ましにされて、無茶苦茶にご機嫌悪かった。
が、事情を説明すると快く歌に参加してくれた。

これが、こいつのいいところだ。

喉がかれるまで、3人でポジティブ・ソング(アニメしばり)を歌い続け、鬱も悪霊も退散したと思われたところで、昼食にした。

鍋の残りでつくった雑炊が、やけに美味かった。

 

 

 

 

『時田紳一郎のごく平凡な一日』


翌日の日曜日。

俺は、図書館へ仕事に出かけた。
すると、開館して程なく中学生と思しい少年少女がやってきた。

顔がなんとなく似てるから、姉弟なのかもしれない。

二人は、児童コーナーで本を返却している俺に声をかけてくる。

「すみません。春休みの宿題で、読書感想文かかなきゃいけないんですけど…なにか、お勧めありますか?」
俺は返却の手を止めて、彼らに向き直った。


「う~ん、そうだね。なにか好きなジャンルとかある?ライトノベルとか、ヤングアダルトとか」
「普段、古典とか外国の有名な作家のミステリを読んでます」
いかにも文学少女、といったみつあみ眼鏡女子の彼女がそう答えた。

なるほど、外見どおりというわけか。
そして、彼女の弟であるらしい、ういういしいくせに妙にオトコぶった弟は、ぞんざいな口調で答えた。

君、そのツンツン頭、あんまりしっくりしてないぞ。

でもまあ、分かるよ、うんうん。
その年頃って、ちょっと似合ってなくても、無理にツッパってみたくなるんだよな。
見てるほうがちょっとばかし恥ずかしいけど、まあ好きに頑張れ。


ニコニコ笑っている糸目状態の俺は、わりと人畜無害に見えるらしい。
ありがたいことだ。
ツッパった弟は、黒縁眼鏡の男性司書に警戒心を持った様子もなく言った。


「俺は夏子と違って、あんま本読まないから、字が少なきゃなんでもいいッスよ?」

……わざわざ語尾を上げるその喋り方、えらいムカつくわ~
でも、姉ちゃんをよび捨てにすると、後で怖いから気ぃつけなはれ。

エセ関西弁で、ツッコミ入れつつ(脳内で)俺はこの前、全10巻で完結した本を二人に薦めた。

「え?10巻あんのかよお!」

文学少女の姉は動じなかったが、弟はブーイングだった。
まあ、そうだろうな。
でも、結構イイこと言ってるんだこの本は。
従妹の菜々子に進められたんだけど、ほんとに心温まる話なんだよ。

「とりあえず、最初の1冊だけよんでみたらどうかな。主人公が中学生の男の子だから
きっと、共感できると思うよ」
「え~、マジっすか?…んじゃ、読んでみます。って姉ちゃん!じゃなくて夏子!俺にも貸せよ」

弟をそっちのけに、姉の方はさっそく一巻目を読み出していた。
中学生だから、児童コーナーのテーブルに座ってもOKだ。

天気のいい日曜の午前中なんて、そんなに利用客も居ないしな。

俺は、中学生(おそらく年子)の姉弟に「共同住宅物語・一部屋に幽霊一体ずつ有り♪オプションで妖怪も可」
を貸した。

しかし長いタイトルだな。
俺の見立ては間違ってなかったらしく、彼らは10冊全部借りて帰っていった。

ふぅ、今日もいい仕事しました。

 

 

 

 

『利用者その2 山本夏子・瑞樹姉弟』

 

「姉ちゃん、やばい。これめっちゃ面白い」
5巻目に突入した瑞樹が呻くと、夏子ははや9巻目をよみながら同意する。
「わたしも、超ハマった!!どうしよう、これ全部欲しい」
「ママ…じゃねえや、お袋にたのんでみようぜ。漫画じゃない本が欲しいっつったら
買ってくれるんじゃね?」
「あ!あんたって、アタマいい!今月おこづかいピンチだしさ~」
「へんなホモ漫画ばっか買ってるからだよ。お袋まで、なんかハマりだしたし。気持ちワリーんだよ、あれ」
「別に、あんたにわかってもらわなくていいから!それよりこの小説、売り切れてないかな?今お金ある?」
姉の問いに、食べ盛りの弟は首を横に振る。
「…ない。友達づきあいとマックに消えた」
文学少女にして、腐女子になりつつある夏子は腕組みして呟いた。

「う~ん。小遣い日は、あと一週間先だもんね。じゃあ、小遣い日になったらママに買ってもらえるか、
聞いて、ダメだったら割り勘ね?なんか、ママもハマって大人買いしてくれそうな気がするけどなあ…」
「よっしゃ、きまり。二人で、母親を攻略しような!」


姉と弟は久しぶりに仲良く、同じ児童文学に耽溺するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

『幕間 時田家の3兄妹 その2』


帰宅した俺は、勿論妹と弟に昼間の利用者(姉弟)のエピソードを報告した。

俺が、司書権限で貸し出す前に一式持ち出して家においてあった間に、二人ともこのシリーズを一応は通読している。

雅美も雅司も、純粋に好意的ではなかったが、この本は面白い部分もあると認めてはいた。


食後の番茶をすすりながら、雅司は鼻で笑った。
「あ~、見えるよ。今頃その罪もない厨房が、”黄樹先生みたいな優しくてきれいなセンセイがほしいわv”とか、
”アキラみたいな理解ある先公がほしいぜ”とか言ってんのが見えるよ」
「あぁ、やっぱ本物の中2じゃわかんなかったかなあ。あの本の、全員もれなく中学二年生病ワールドが…。でも、そこがいいんだけどな!」
俺は、いちおうフォローした。

すると、デザートのイチゴ大福を食べていた雅美がこれまた鼻で笑う。

「そりゃ15歳や14歳で、わが身と引き比べて、恥ずかしさと青さを悟るなんて無理じゃない?それに人間、自分は正しいと思うもんだからさ~。
年とったって、中身は大して立派になりゃしないのよ。自分で、育てていかなければね、っと」

雅美のいやに悟りきったというか諦めきった自論に、雅司が柔らかな声で答える。

「大丈夫だよ、よっぽど不幸な環境にない限り、いつか中学2年生の自分を、うぎゃああ、恥かつぇーと思うようになれるからさ!」
「ツェーってなんだ?」
思わずツッコんだ俺に、雅司は真顔で一言。

「いや、はずかCは古いと思って、ドイツ語にしてみました」
「…………」

そういえば雅司は、第2外国語の専攻がドイツ語だった。
雅美が、呆れた目で弟を一瞥したあとこう言った。
「30代からすると、途中参加の二人の先生も結構イタいわよね?男の先生は金持ちだから、全てゆるせるけどね」
「え~?僕もまだ20前だけど、こんな男の先生イヤだよ?ウザイじゃん、ちょい悪先生なんて。ていうか、話し聞いた限りだとその男は、
単に虚弱体質でむちゃくちゃ世話の焼ける、ナルシー金持ち莫迦ぼうや先生ってことじゃん?いい年こいて、中学生に世話やかすなよ、自立しろ自立!!!」


お前ら…なにもそこまで…。

ほら、人という字は、お互いに支えあっているじゃないか。
な?人は助け合い支えあい、愛し合って生きてゆけばいいじゃないか。
どんな大人だって立派なセンセイだって、つらいときは寄りかかりたいんだよ、誰かに。
いいじゃないか、生徒だって甘えてばかりじゃなくて、たまには誰かに甘えさせてあげてもさ…。


心の中で、細々と呟く。

口に出したら、弟妹から二方向で連射攻撃(反撃)を喰らいそうだからあくまで心の中で、だ。

そして、口に出してはこう言った。
「そうか?俺は黄樹先生とか好きだぜ?色白美人で、清楚カレンな女教師!最高じゃないか。
女性歌手と同じ名前の男教師はちょっと…俺の萌えポイントを斜めにハズしてくれたけどな」
「ああ、あれは男には受けそうもないキャラだね。受けるとしても10代半ばまでじゃない?
大学生になったら、ハナもひっかけないようなキャラなんじゃない?」
雅美の同意に、俺は首をかしげる。
「さあ、好きな人間はいくつになっても、好きだろうけど。俺的には、性別が男なのが、そもそも残念賞だったな~。あれで、女だったらホレたけど…」
「え~、わたし、あれが女だったら許せないけど?ん?でも天然虚弱キャラな金持ち?…う~ん、金づるとして利用するためになら、好きになれそうかもvv」

そんな、どす黒いコト語尾にハートマークつけて言わないで下さい。

「でもまあ確かに、雅司の言うとおりだと思えなくもないよ?いい年こいた男なのに、あんなに手がかかるんじゃ、
30代男性に言わせると単なる年だけ食った迷惑男だろ。
一番マイルドにいって、金持ちなだけの不良貧血中年だろ」
「どこがマイルドなんだよ…」

自分でも、男性教師をこき下ろしたくせに、雅司は鼻白む。
逆に俺は、だんだんエキサイトしてきた。
「ていうか、アキラっていう名前なら女でもいいじゃんかなあ?どうせ、対照的な教師を出したかったんだから、
女二人にした方がより違いが際立ってよかったはずだ!その方が、男として萌えたね!絶対!!!!」

「…いや…無理に男に萌えなくても素直に、清教徒っぽい美人に萌えてれば?
尼さん萌えとかあるじゃん」

雅司のツッコミに、俺はきょとんとした。

「え?男でもOKだよ?
ていうか俺、某M川先生の漫画キャラである、
ダウンタウンの探偵事務所に降り立ったエンジェル”マサ(略)子さん”に
果てしなく、萌えを感じるけど?
ていうか、むしろ俺の心の萌え師匠だよ!
ていうか、マ(略)子さんは、俺の嫁だよ!!!」

俺は、興奮のあまり机をぶったたいて力説した。

「身長2メートルの、筋肉ムキムキ女装姿に萌えるって!
兄さんの趣味はマニアックすぎるよ!同じ男に萌えるんでもせめて、ヘタレ主人公か長髪オタっ子、あるいは
サービス精神旺盛な探偵所の所長にしておいてくれないかな!ある意味、腐女子よりもクサレた真性だよ!」


無論俺は、彼女いや彼に関しては本気と書いてマジだ。
いつぞや、誌面で彼が花嫁姿になった時は、ついに他の男のモノになってしまうのか!
と思い、失恋のショックで飲んだくれてしまったほどだ。


素直に告白すると、弟妹は抱き合って震えだした。

……どういう意味だよ。

「「ヤバイ、この男はヤバすぎる。うちの家族には、一人ヘンタイがいるよ」」

弟妹は口を揃えて、そう言った。
ますます、どういう意味だ。

お前ら、人のこといえた立場か!!!!


「…あ~…っと、話を戻すけど、赤木センセイが好きってまじで?あんな清楚可憐なペルソナ使いの、
独善至高な潔癖症患者は、兄さんきらいじゃなかったっけ?」

雅美が、俺を調伏(?)するべく口を開いた。
俺は、冷静に答えた。

「いや、昔は男女とわずこの手のキャラは虫が好かなかったけどな…。30も半ばを過ぎて、色々な人間と出会ってみて分かったよ。
人間、にこにこ笑顔だけ見せ合ってるのが一番いいよ。それで、平和が訪れるんなら、俺はは生涯微笑みの仮面をかぶり続けるね!
そんでもって、心にもないおべんちゃらでもお世辞でも、言ってのけるさ!腹の中で、どんなことを考えようともな!!!」
「むしろ、その腹黒さが表に全然にじみ出てこない兄さんの方が僕は怖いけど…。
兄さんて、一見して何か企んでそうに見えて、実は温厚な人間だけど心の中は真っ黒クロスケ…。あれ?結局見た目どおりってことなのかなあ」
「裏の裏は表なのよね!」

雅美と雅司はうなずきあった。


いいさ、どうせ俺は悪人面さ。
なんとでも言うがいい。

今更グレたりしないよ、大人だもん。

しかし、実の妹や弟にここまで言われると、心の中ではちょっと涙が出ちゃう…気がしないでもないなあ。


次回につづきます

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